「北で出会った人々の記録」として描かれた、断片的な記憶をたどる作品。「歌うつもりのない歌」「失ったフレーズを探す旅」「星々のまたたく天空137億年」など、印象的なフレーズに彩られた「北」の光景が、オムニバス的に紡がれていく。インクと色鉛筆の暗い色彩と、線が震えるアニメーションによる、いびつで不安定な姿をした人々は、苦悩や不幸に直面しているようにも見える。作家は本作で「近代の苦悩」の「神話化」を試みたと語っており、現代の世界が抱えているさまざまな問題にも通じる人間の営みの悲しさや滑稽さを描きながら、ざわめくようなアニメーションによって、そこに宿る生命のリアリティも強く感じられる映像ができあがっている。痛みと向き合うことをテーマとしたアニメーションを通じて、現実の世界への希望をつくり出そうとする作家の姿勢を、ひとコマごとの絵の積み重ねによって見る者に強く訴えかける作品。