「今更あの子に兄弟できたら、困っちゃうじゃん(笑)」「まだできるの?」「……」
結婚15年目。夫・洋平(52)からの夜の営みの誘いを冗談めかして断ると、洋平はため息と共に背を向けて寝始めた。倦怠感、というよりも嫌悪感を覚えてからどれくらいになるだろう…。だがこの“幸福な人生”こそが何者かになりたかった私の最終地点…そのはずだった。
アシスタント歴20年を超えて夢を諦めた売れない漫画家・綿貫忍(39)は、たくさんの思いを東京に残し地元に戻って筆を置いた。だが皮肉にもその直後、昔描いた人気薄だった自作が電子書籍でリバイバルヒットする。そして「これが最後」だと、再度本気で漫画と向き合うことに。そんな中出会ったアシスタントは、橘千秋(22)という美しい青年だった…。自分を一人の女性として、何より漫画家として敬意を持って接してくれる千秋に、忘れていたときめきを感じ始める忍。ところが“不自然にも”、千秋も忍へ妙なアプローチをかけてくる。
そしてそんな千秋と交流する内に、忍の中に積み重なっていたある種の歪みが顕在化してくるのだった